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2026年7月27日 - 河合楽器製作所 竜洋工場見学報告

約12分

2026年7月、Hibiki Path Advisors SPC(「私ども」又は「弊社」といいます。)は、2023年以来の主要投資先である株式会社河合楽器製作所(証券コード 7952、以下「当社」又は「KAWAI」といいます。)のピアノづくりの付加価値の源泉と言える竜洋工場の見学会に参加をさせていただきました。今回の投稿では、工場見学の内容に留まらず、そこで得られた示唆や私どもの疑問点に関して、皆さまと共有をさせていただきます。

先ず、竜洋工場の概要ですが、1980年にグランドピアノの専門工場として完成した後に、現在ではフルラインで、最高品質ラインのShigeru Kawaiから、GX、 GLライン、アップライトピアノ そしてSteinway & SonsのOEMであるBostonピアノまでの製造を担うマザー工場としてKAWAIの屋台骨を支える工場となっています。

工場は新幹線浜松駅から車で30分程度の海岸沿いにあり、敷地面積は17万㎡、サッカーピッチ20面分、部品工場、鍵盤工場、塗装工場等を持ち、主要工程を内製している点が特徴となります。今回はこの中で最も人手がかかる部分の最終組み立て工程の工場を拝見しました。

第一の感想としては、「ピアノ一台一台に込められる様々な職人技に驚愕した」ということです。弦を張る力技の必要な作業、ハンマーの当たり方を均一にするミリ単位未満の目視、88ある鍵盤の並びや押した際の下がり方を均等になるよう調整する作業など、他にも工程が沢山ありますが、未だに人の手によってでしかできない部分が多く、まさに「工場」というより「工房」という表現が当てはまる独特な製造現場です。

ピアノ製造工程に関する講義も伺い、例えば響きの広がりを生み出す「響板」という大きな板を機械乾燥でなく時間をかけた自然乾燥により品質の向上を図っている点やその響板の元となるスプルースという木材は響板として使えるまでには樹齢100年を超える(そしてそのために植林も行う)お話しなど、ピアノという楽器がいかに長い時間軸の中で自然と共生した上で成り立っているか、まさにピアノが開発されてから300年の歴史の重さに想いを馳せることが出来ました。

今の人間社会が際限のないデジタル化・AI化に向かう中、ビジネスとして成長ラインは押さえるべきですし、KAWAIも電子ピアノを成長戦略の柱として位置づけています。しかし、このように、木材を中心とした部品を約10,000点も使うピアノという奥深い精密工芸品から放たれるアコースティックな響きは決してなくならないどころか、最近のデジタルネイティブ世代のヒューマンエンターテイメント全般に対するデジタルデトックス渇望の象徴である、「リアル(イマーシブ)化」「アナログ化」「ライブ化」が指し示すように、今後再評価されていく時代も近いのでは、と感じさせる貴重な体験となりました。

ただ、その技術が素晴らしいからこそ、常に収益性改善、利益増を求められる立場にある上場企業として、この①職人技の維持、②品質に対する評価(つまり価格)、③収益性(原価)管理をどのように最適化していくか、課題は依然として大きい(つまり経営管理面での改善余地も大きい)と、全体を拝見した上で感じた面もあります。

2023年のKAWAIへの提言書にて、以下のグラフを利用しています(当時はスタインウェイが上場準備をしていたことから届出書より財務情報が取得できましたが、その後上場申請を取りやめたため2021年が公開情報として財務情報を取得できる最終年度となっております)。

(出所:各社決算資料よりHibiki作成)

広義でピアノ専業に近いスタインウェイとKAWAIで粗利率で15%程度、そしてEBITDA率で10%以上の差となっているこの差は何なのか、外部からは伺い知ることが出来ませんが、KAWAIはスタインウェイのミドルラインブランドといえるBostonのOEM製造を1992年から続け、現在の竜洋工場においても重要な収益源となっており、その答えは実は見えているのではないか、という素朴な疑問が生じます。

例えばKAWAIは、ハンマーやアクション(鍵盤から弦へ動力を伝える部品)の多くの部品を自社で内製していることで高い品質を維持していますが、自社内に絶対に残すべきコア技術は何かという視点、さらには、製造業として自己再生を可能とする収益性の両面から見て、この調達体制がベストか、というアングルで検証されているか、という問いです。おそらく品質の維持と伝承のみを最優先と考えると、全てを内製することが、ベストシナリオであるケースはどの製造業でも同様ですが、そもそも事業は競争であり、競争優位性を発揮し利益を拡大していくことにより自己再生産と従業員の幸せを獲得することが可能となります。現状では、熟練工の方が効率的に高品質な部品を製造しており、結果的に外注するよりもコスト効率が良いそうですが、中長期的な目線で熟練工の方の引退等も見据えた場合に、品質と同時に競争優位性を維持するベストな生産工程につきどのような検討がなされているのか、強い関心を持った次第です。

例えば、それこそKAWAIの良きライバルでもあり顧客でもあるスタインウェイ社は、実は、当初は数百年もの間、コアパーツである鍵盤、そしてハンマーとアクションを、それぞれ、ドイツのKluge Klaviaturen社、そしてLouis Renner社から外部調達し、全体構造を支えるフレームはオハイオ州のO.S.Kelly社から調達してきました。その上で自社内で組み立てる際にスペックを極限まで磨き上げる、トヨタの看板方式に近い製造工程でした。事後的に、この3社はスタインウェイ社に買収されましたが、今でも独自の法人と生産工程を残し、外部からも注文を受けることで独立した一企業としての技術革新を続けています。

別の良きライバルであるFAZIOLI社は最高品質のグランドピアノに特化しており、年間150台程度しか生産しないため固定費負担キャパシティがなく、鍵盤やハンマーアクションは、何とスタインウェイ傘下となった両ドイツ企業から今でもメインで調達しています。勿論、デザインスペックは極めて細かく指定され、調達後に自社工場でさらに独自の門外不出の最終調整が行われるようですが、製品の品質に対するこだわりの道筋とその表出の仕方には様々なケースがあることが確認できます。

KAWAIの主力工場が日本に存在することから、欧州からの部品のモジュール調達は実は現実的でない可能性もあろうかと存じます。しかし、もしそうだとした場合、反対に、工程と品質管理が徹底した自社製造の一貫体制から来る付加価値を今まで以上に顧客にアピールし、その潜在的付加価値を顕在化するブランディングとそれに見合う価格を獲得することがより一層大切になろうかと存じます。30年前にスタインウェイ社が、同社の大事なセカンドブランドBostonの製造をKAWAIに託した理由とも根底で強く結びついているのではないでしょうか。そういった「KAWAIの本当の強みとは何か」「その強みをどのように顧客や市場に認知させるか」という根源的な問いについて、改めて考えさせられる大変有意義な今回の工場訪問であり、KAWAIの現場トップや経営層の皆様に是非問いかけたい部分となりました。

また、先のようにスタインウェイとFAZIOLIがライバル関係でありつつも、その部品が同じ工場で生産されているという事実も今回別途調査をし、判明しました。KAWAIオリジナルの部品の性能が良いと仮定した場合に、その部品を正当な対価で外部(例えば中国メーカー等)に提供する、若しくはヤマハと一部の部品を共通化するなど、業界の存続と発展をかけて「今までにはない形で」収益性を確保する仕組みも検討の余地があるのではないか、と感じた次第です。KAWAIのような企業の持つ「暗黙知」とも言える独自の深い技術と職人性が、サステナブルな形でブランド価値(≒超過利潤)として顕在化されない場合、その「暗黙知」は資本主義的な文脈の中では存在を認められないままに企業の自己再生産が困難となり得ます。KAWAIの本質的な価値の顕在化に強く期待をして投資をしている私どもとしても、河合社長をはじめとする経営陣が「不易流行」の精神で、聖域を設けずに「カワイ十年の計」を厳しく実行していただきたく思います。

現在のKAWAIは、2021年度に達成した過去最高利益から利益水準が大きく低下してしまった状況であり、そしてそれに伴うPBR 0.6倍という株式市場の評価は残酷です。2025年のショパンコンクールでの飛躍的な評価の高まりとのギャップが極めて大きい状況です。日々付加価値を紡ぎだす製造現場の皆様の評価としてはPBR 0.6倍は正当ではないと実際に私どもの目で現場を見て強く感じたと同時に、製造工程の設計思想、そしてブランディング戦略と販売努力に関して経営戦略のさらなる先鋭化と覚醒を期待しています。

私どもは、当社の成長を応援する株主として、そして「親しくも、厳しい友人」として、引き続き当社の企業価値最大化のための建設的な対話を継続して参ります。

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