12月19日、主要投資先の一社である(株)アルファポリス(以下、「アルファ社」、若しくは「当社」)の恵比寿にある本社オフィスへ訪問し、経営幹部の方々に対して取材及び意見交換を行いました。つきましては、ご関心を頂いている皆様にここに簡単に共有したいと思います。
結論から申し上げると、改めて「目覚めつつある獅子」という印象を持って帰って参りました。3月に企業価値向上施策ご提言書を送付の上で公開し、折に触れて意見交換を重ねて参りました。その間に、初配当、株式売り出し、そして株式分割等、様々な施策を矢継ぎ早にご発表いただいています。このように、株主還元及び流動性向上施策を実施いただいていることは、当社が上場企業として成長していく経営の強い意志の表れであると私どもは理解しています。ぜひさらにその方向性で突き進んでいただきたいと思います。
事業は引き続き好調を維持しており、アニメ化による電子書籍売上への還流など想定通りの新規ファン掘り起こしサイクルが確立しつつあります。当社の強みは、大手UGC(User Generated Contents)出版社として、才能豊かな作家さんを多く抱えていることであり、その強さを最大限生かすのが漫画化・アニメ化というバリューチェーンを強固にする流れの存在です。所謂「異世界もの」の静かな世界的ブームが続いており、海外への波及もあり、今のところ当社もその流れにのって電子書籍化・アニメ化のサイクルが非常にうまく回っている模様です。
但し、今後の課題としては、急激な需要増に対して、アニメ化のスタジオが十分に確保できないという潜在的な問題(その陰には労働環境と人材不足の課題)があり、この課題に対してM&A戦略含め幅広に対応を検討しているとのことです。日本の漫画やアニメが突如グローバルIP化する中で、大手である(株)KADOKAWAや(株)IGポート(以下、「IG Port」)を含め、漫画・アニメを「産業化」していく試みはまだまだ道半ばであると感じております。
今後は適切なリスクを取りつつ自社作品のアニメ化への出資を拡大し、IPライブラリーからのストック収入を大きく増やしていく戦略を当社は打ち出しております(以下画像参照)。この戦略は、種まき期となる今後3-4年では事業のボラティリティを増加させる影響があるかもしれませんが、長期のアルファ社の事業発展のためにはこの道は必要不可欠な戦略であると私どもも認識しております。2015年頃から一気に漫画の発行に力を入れて現在の主力事業へと育ったように、梶本社長が次の一手としてIPのアニメ化、そして出資拡大路線に舵を切ったことにつき「是非、正しい選球眼の上、果敢にリスクを取っていただきたい」と一株主としても応援をさせていただきました。
図1:アルファ社 アニメビジネスの拡大方針
(出所:アルファ社2025年3月期第二四半期決算説明会資料より抜粋)
その上で、改めて2点、大きな視点にて叱咤激励の気持ちを込めてご指摘をさせていただきました。①市場(投資家)対応の改善と、②財務施策です。
①市場(投資家)対応
今まで実施いただいている売り出しや分割等の流動性改善施策による投資家層の拡大を引き続き邁進いただきたいというお願いを改めてさせていただいた上で、今後は、証券会社(セルサイド)アナリストへの能動的な認知拡大アプローチをしていただきたいということも御伝えしました。
日本のIPが世界から注目されるようになり、当社も以前よりも多くの投資家に注目される環境になってきております。しかし、その分、投資家からのミーティング依頼も増え、IR業務の工数も激増し煩雑化することが目に見えています。そんな中、「来るものを受けながらこなしていく」姿勢だけではなく、積極的なセルサイドの活用を通じて投資家を教育していくことにより、結果的にIR業務を効率的かつ効果的に回せるようになると考えています。そういった意味で、今までは決算IR説明会での登壇のみに留まっていた、「梶本社長がスピーカーとなるスモールミーティング」の実施も含め、説明会、スモールミーティング(証券会社主催)、ウェブサイト充実化、IR面談等のバラエティを増やし、ゾーンオフェンス的なアプローチにより戦略的にIR業務のフレームワークを構築していただきたいとお願いを致しました。
このような多面的な戦略を、地道に、そして継続的に実施し、投資家の認知を高め、リスクプレミアムが低下した良い例に、弊社代表清水雄也が外部顧問を務めるIG Port(3791)があり、その事例も今回のMTGで簡単にご紹介をさせていただきました。IG Portのウェブサイト は今年7月に大幅リニューアルされ、アニメ制作会社ビジネスの制作~出資の収益サイクルが極めて分かりやすく掲載されております。投資家になかなか理解されにくいビジネスモデルを、このようにかみ砕いて説明していくオープンな姿勢には頭が下がり、株価にも、グループ全体のブランド価値にも大きなプラス影響があったと感じております。是非アルファ社にもこのようなアプローチを参考にしていただきたく存じます。
②財務施策
財務に関しては、先の提言書でも指摘をさせていただきましたが、現在でもネットキャッシュが積みあがり続けている点に関して、「財務面からの戦略の見える化」対応をお願い致しました。
2024年度第二四半期(中間期)で、事業好調の背景もあり、ネットキャッシュ(現金 - 有利子負債)は100億円の大台を超えました。電子書店や取次からの売掛金サイトが比較的長い背景もあり、売掛金が同中間期で32億円と年商のほぼ1/4程度と高めですが、いわゆる旧来型の製造業ではないため在庫はほぼゼロであり、年間運転資本そのものも30億円程度となる中、ネットキャッシュの100億円は月商のほぼ10倍にあたり、過剰感は否めません。
図2:アルファ社 ネットキャッシュと時価総額の推移
※最新期ネットキャッシュは中間期決算短信、時価総額は2024年11月末終値を参照
(出所:当社決算資料、BloombergよりHibiki作成)
お伺いする度に、「M&Aを機動的に行うための待機資金」とのご説明を頂いてはおりますが、良いM&A案件であれば銀行からも融資を得やすいですし、当社としても既に一部借入金があり、銀行との日常的な関係は構築済みと考えられます。当社のみならず、過剰現金所有と過剰資本は多くの日本企業にとって課題ですが、当社においても、ROE目標を立ててそこに向かって財務体質のスリム化を行っていただきたいとお願いを致しました。良い事業と筋肉質な財務体質から導かれる「高い株価評価」は、銀行融資を得る意味においても、M&Aの戦術のバラエティを増やす意味(株式交換等)でも効果的です。ROEなどの目線をしっかり持っている会社は機関投資家からも評価されやすく、またそれにより売り出しなどを通じて所有構造の分散化と機関化も進めやすくなります。
尚、当社の独立社外取締役に白石卓也様という方がいらっしゃいます。デジタル戦略の専門家でいらっしゃり、現在でも、味の素(株)(以下、「味の素社」)においてCEO補佐という役職に就かれており、幅広い知見と戦略的思考に長けていらっしゃるブレーンと理解をしております。その味の素社は2023年に「中期ASV経営 2030ロードマップ」を発表されまして、その中に以下の秀逸なスライドがございます。そこには、目指す姿を可能な限り定量化した上で、さらに財務面においても強い覚悟を示す高い目標を掲げ、分かりやすく資本市場に提示しています。ちなみに、ROEは現状の10%前半から、18%(FY25年)、そして20%(FY30年)と定量目標値にて開示をいただいています。
(出所:味の素社 IRウェブサイトより抜粋)
企業によって中長期の目標を表現する方法は、その事業特性に応じて千差万別であり、特定の形を強制するべきではないと私どもも認識しています。しかし、基本的スタンスとして、会社の目指す資本収益性(ROE)がどの程度なのか、そしてそれを実現していく道筋はどういうものか、は株主に対する説明責任があるのではないかとも感じております。是非ご経験豊富な白石様の知見やアドバイスを十分にいただきつつ、そういったファイナンス思考的にも進化したアルファ社を見たいと強く願っております。「強い事業」と「ファイナンス思考」が自転車の前輪・後輪のように機能することで、まさに「鬼に金棒」となることでしょう。期待をしております。
来年も引き続き叱咤激励型エンゲージメントを続けていきたいと思います。
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