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2025年6月5日 ー 株式会社巴コーポレーション 中期経営計画修正に対するコメント

約7分

2025年5月30日、私どもの主要投資先である巴コーポレーション(以下、「巴」若しくは「当社」)が、「第3期中期経営計画『TOMOE BUILD up 5』修正に関するお知らせ (以下、「修正後中計」)」を発表しました。主な変更点は、➀完工営利(一般的な営業利益と認識しております)目標の上方修正、➁ROE目標の大幅な下方修正です。それぞれ、25/3期に実行された不動産賃貸をコア事業とする関連会社の連結子会社化(以下、「グループ再編」)が主な要因との説明ですが、➁については株主共同の利益の観点から極めて残念な内容であり、私どもの所感をコメントさせていただきます。

まず、➀については、不動産部門の利益の上方修正により、完工営利目標を40億円から42億円に上方修正しております。図1にてご確認ください。完工営利目標が上方修正される事自体は好ましいと思われるかもしれませんが、株主の目線ではそれだけを見て判断する事は適切ではないと考えます。私どもとしては、グループ再編を通じて資本も増えていることも踏まえ、企業価値の目線では、②ROE目標の変化が重要と考えています。

図1:中期経営計画見直しの理由およびポイント

(出所:当社中期経営計画資料)

その観点で➁を見てみると、ROE目標は大幅に下方修正されています。当社は、2023年5月に公表した当初の中期経営計画 にて、ROE目標を10%に設定しておりました(図2)。

図2:中計発表時のROE目標

(出所:当社中期経営計画資料)

しかしながら、修正後中計において、ROE目標を従来の10%から半分の5%に大幅に引き下げました。その上で、図3にて、その理由を「今回の再編に伴い、分母の総資産(おそらく純資産の間違いであると拝察いたします)の大幅増加に比して、分子の当期純利益の増加の割合が小さい」と述べております。簡潔に申し上げると、再編に伴い発生した特別利益116.9億円(図4)による純資産の増加に対し、利益は2億円しか増加しない(図1)ことを指していると考えられます。単純な簡易計算に基づけば、このグループ再編における資本収益性への貢献は1.7%1と考えられ(グループ再編に伴う不動産を有する子会社の連結化に伴い発生したと考えられる非支配株主持分106億円23も考慮すると0.9%4)、ROE目標10%(≒ハードルレート)を掲げる当社がこのようなROEを引き下げるグループ再編(子会社の連結化)を実行したこと自体に疑問が生じると言えましょう。

図3:ROE目標

(出所:当社中期経営計画資料)

また、図4では、「グループ再編に伴う特別利益116.9億円は、キャッシュフローに関わらない項目であることから、 株主還元に際しての原資としての扱いからは除外」と記載しておりますが、25/3期決算短信(修正版)によると、ROEへの直接的な貢献は売却時の一過性に限られる、投資有価証券(主に政策保有株式)を約358億円保有しており、株主還元の原資は十分にございます。特に当社は長年PBRが1倍を割れているにもかかわらず、過剰な純資産を抱えるという課題に対する策を講じることなく、単純にROE目標を引き下げたことを、極めて遺憾に感じています。

図4:株主還元に関する基本方針

(出所:当社中期経営計画資料)

今回当社がROE目標を大幅に下方修正した要因である特別利益は、グループ再編によって子会社の保有する不動産が時価評価されたことにより、多額の含み益が顕在化したことで発生しました。この点、保有する不動産が今回以上に多額の含み益を抱えているのは、巴本体も同じ状況であることを忘れてはいけません。24/3期有価証券報告書によると、その含み益は約400億円(税率30%控除後で280億円)とのことです。これを今回のグループ再編と同じように時価評価として純資産に反映をさせた結果が、図5のセグメント別ROE5にて緑色にハイライトしている部分になります。時価基準のセグメントROEを比較すると、本業である鉄構建設のROEは15.7%と非常に高い水準ですが、ここには全社純資産の12%しか使用されておりません。残りの88%のうち、ROEが僅か2.1%の不動産に55%、事業利益を生まないその他(主に政策保有株式)に33%も使用されております。加えて申し上げると、不動産の含み益の約400億円(税引後280億円)はあくまでも当社が開示している鑑定評価額であり、当該不動産が仮に売却される際には、さらに高値で取引される可能性が高いと考えられる事から、純資産における不動産の比率は上昇し、セグメントROEは実態としては更に低くなることが予想されます。

図5:セグメント別ROE(弊社試算)

(出所:当社24/3期有価証券報告書、25/3期決算短信(修正版))

(注記)
ROE:分子はNOPAT(利益×(1-税率30%)を使用
利益:鉄構建設は25/3期実績、不動産は修正後中計目標値を使用
セグメント別純資産:全社純資産730億円のうち、➀非支配株主持分106億円2を不動産に、➁有価証券評価差額金129億円をその他に割当。残りの495億円をそれぞれセグメント資産の割合(➀➁の純資産比率分の金額控除後)に応じて案分
含み益:280億円(24/3期有価証券報告書による不動産の税引き前未実現利益400億円から税率30%控除)

上述の分析から、当社の課題が浮き彫りとなり、当社の計画程度の株主還元(図4)のみでは、本質的なROEの目線では8%は言わずもがな、5%ですら達成するのが難しいと考えられ、不動産を時価で評価したPBRが1倍を超えられる状態には到底達しないであろう事が想像に難くありません。私どもの今回の株主提案である、総還元性向が100%以上となるDOE10%水準の株主還元が必要であることをご理解いただけるものと存じます。

不動産と政策保有株式を売却して、本業への集中投資を行いつつ、余剰分は株主還元に回すことにより、ROEは改善し、資本市場からの評価も大幅に改善する事が期待されます。私どもは、当社が時価基準でのPBR1倍を超えるためには(2025年6月5日終値1,394円ベースで0.6倍)、踏み込んだ事業戦略と資本政策による根本的な課題解決が必要であると考えております。当社自身も2024年11月に公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」にて、同様の課題認識を示されておりますが、当社の対策が一向に進まない状況に鑑み、今回株主共同の利益の確保を目的に株主提案を行うものです。

尚、東京証券取引所の2024年8月30日発表資料内には「…上場維持コストが増加し、非公開化という経営判断が増加することも想定されるが、そうした判断も尊重。」と言及があります。当社においても、ROE及びPBRを抜本的に改善していく取り組みを行う意思がないのであれば、別の形での株主共同利益の最大化を実現すべく、マネジメント・バイ・アウト(MBO)を含む株式非公開化についても検討すべきと私どもは考えます。

以上

12億円(利益の上方修正) / 116.9億円(再編に伴う特別利益)
224/3期までは非支配株主持分は無かったことから、主にグループ再編に伴う不動産を有する子会社の連結化に伴うものと判断
3当社25/3期決算短信(修正版)
42億円(利益の上方修正) / 223億円(116.9億円(再編に伴う特別利益)+ 106億円(非支配株主持分)
5純粋に事業から生じる利益のみを含める簡易計算(利益に(1-税率30%)を乗じて算出)に基づく

当社への株主提案は、下記リンク先資料をご覧ください。

2025年5月29日 ー 株式会社巴コーポレーション 株主提案について


なお、今回の資料等の公開については、特定の有価証券の取得の申込みの勧誘若しくは売買の推奨又は投資、法務、税務、会計その他いかなる事項に関する助言を行うものではありません。