現在株式市場では、AIデータセンターの加速度的な成長が大きく注目され、恩恵を受ける企業の探索に熱が入っています。
・日経:データセンター銘柄、通信に限らず建設や不動産、機器・保守も
・Diamond:「AIデータセンター」関連銘柄を紹介! オープンAIがソフトバンクGやオラクルなどと提携して「巨大AIデータセンター」建設を発表するなど、世界中で需要拡大!
・株探:【特集】大旋風!「AIデータセンター関連」ここから狙う隠れ本命株5選 <株探トップ特集>
残念ながら上記記事では私どもの主要投資先である日本高純度化学株式会社(以下、「JPC」又は「当社」)は触れられていませんが、当社もAIデータセンター関連で恩恵を受ける企業の一つだと考えています。
JPCは金(Gold)めっき薬品の開発・販売事業を営んでおり、他に類を見ない高い技術力を有しています。例えば、コンピューター・サーバーの心臓部であるMPUをプリント配線板に実装する際の金めっき用薬品では、2010年代初頭では世界シェア50%を有するなど圧倒的で(参考)、自社サイトでは現時点でも電子部品向けめっき薬品では世界シェアトップレベルと記載されています。然しながら、IR面を含めた企業価値向上への意識が不足しており、私どもは直近では決算発表及び業界再編に係る考察についてコメントするなど、エンゲージメントを継続的に行っています。
今回は少し趣向を変えて、当社の事業の中で私どもが期待している光トランシーバー分野に関して、一投資家としての意見を共有させていただきます。
当社は26/3期2Q決算の中で、今後期待する領域として、光トランシーバーを初めて対外的に開示しました。その後のIR取材の中では、当該光トランシーバーは生成AIサーバー等の高速通信が求められる領域を中心に利用されており、売上は現状では「プリント基板・半導体搭載基板用めっき薬品」内の10%内外(26/3期半期報告書ベースで全社の5%程度と推定)に留まるものの、短期的にかなり強い需要が見えており、この勢いが続く場合には、当社の柱となる事業に成長する事を期待されているとの事です。
今後大きく拡大が見込まれる生成AI関連サーバー領域において、当社が明確な成長戦略を提示されたこと、更には、事業成長に向けた橋頭堡を既に確立されていることを、私どもは今後の企業価値向上に向けた大きな一歩と受け止めています。
図1:JPC 26/3期 第2四半期決算説明資料トピックス 光トランシーバー分野での展開

(出所:26/3期2Q決算説明資料)
さて、AIサーバーで光トランシーバーの利用が急速に拡大すると言われても、どの程度期待できる事業なのかが、当社の開示のみでは理解が難しいように思います。一方で、調べるほどに、当社の柱としての成長を期待出来る領域との思いを強くしており、私どもの期待を皆様に共有させていただきたく、以下の観点で深掘りしていきたいと思います。
①光トランシーバーとは何に使われるのか?
②今後どれくらいの成長が期待出来る事業領域なのか?
③何故金めっきが重要な役割を担うのか?
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①光トランシーバーとは何に使われるのか?
光トランシーバーは、電気信号と光信号を相互に変換するデバイスのことを指し、現代の高速通信ネットワークの基礎となる光ファイバーによる通信を支える重要な役割を果たしています(参考)。具体的には図2の通り、光ファイバーとネットワーク機器が繋がる場所に使用されており、大容量のデータの伝送は伝送スピードやロスの観点から、Wi-Fiのような無線ではなく有線で行われます。
図2:光トランシーバーが使用されている箇所

(出所:EE Times Japan)
私どもはAIデータセンターにとって、光トランシーバー・ファイバーは必要不可欠なものだと考えています。現在AIデータセンターでは、長距離伝送・高速効率的通信・省電力化が大きな課題となっており、その解決に資するものだからです。
AIデータセンターは分散立地する傾向にあるため、データを高速かつ長距離でやり取りすることが必須になってきます。また、AIサーバーは高発熱となるため、なるべく電力損失を回避し冷却システムの負荷を減らしたいほか、データセンターの電力消費量は2030年までに現在の日本国内の電力消費量をも上回るとされており、それだけ省電力化が求められます。(参考1、参考2)
その課題を解決するのが、光トランシーバー・ファイバーです。主な競合として銅線がありますが、光ファイバーによる通信の方が高速、且つ、減衰が起こりづらい特徴を持ちます。そのため、長距離でも効率よく伝送できるほか、余分な電力損失を抑え、節電にも寄与します。その際に、電気信号と光信号を相互に変換するトランシーバーの性能は通信全体の質に大きく左右する重要な役割を担います。(参考)
実際、光ファイバー大手で「電線御三家」と呼ばれる古河電気工業(5801)、住友電気工業(5802)、フジクラ(5803)は2024‐2025年にかけて、大きな期待とともに株価の急騰を見せています。3社の年初からの騰落率は以下の通りです。なお、フジクラは2024年の東証プライム上場企業騰落率ランキングでも第1位にランクインするなど快進撃が続いています。
図3:電線御三家の騰落率

(出所:四季報オンライン、株探)
また、光ファイバー市場が伸びれば、光トランシーバーを含むコネクター市場も同様に成長します。実際、コネクタ・アダプタのメーカーであるサンコール(5985)も、今年8月にデータセンター向け需要を背景に大幅な業績予想上方修正したこと等を受け、24年末の278円から25年10月末1,012円と約264%の株価上昇を見せています。精工技研(6834)も、23年末終値1,380円から25年10月末終値9,600円と600%近い上昇を見せたほか、11月13日発表の第2四半期決算を受けて前日終値から20%を超える更なる上昇に転じています。精工技研で注目すべきは、2024年に見せた実績を先取りする株式の値動きです。同年5月に発表された24/3期通期決算は前年よりも売上高が低下、営業利益は過去5年間で最低となりました。しかし、想定よりは利益が上振れした点や決算説明会資料記載の光コネクター等を主軸とする光製品部門の強気な見通し等から成長転換への期待が膨らみ、株価は大幅な上昇に転じました。実際、25/3期の売上は前年の158億円から200億円、営業利益は11億円から28億円とV字回復を見せ、先行していた期待に応えて見せました。急速な拡大を示す領域においては、業績が実際に大きく伸びる前にその潜在性を見抜いた投資家がその果実を享受することが出来る典型的な事例だったと感じています。
光ファイバー、コネクターが伸びるのであれば、JPCがめっき薬品を納品する光トランシーバー市場も同時に伸びると考えるのが自然であり、JPCには着実に案件を積み重ね、この大きな波に乗っていただくことを期待しています。
尚、JPCは基板表面処理に使われるめっき薬品メーカーという性質上、基板の多層化トレンドの恩恵を十分享受することができず、昨今の半導体市場の好調にもかかわらず成長面で乗り遅れてきたという経緯があります。しかし、光トランシーバーに関しては、各サーバーで大量の本数を利用するという特性からも、当社業績伸長に向けた鍵となる、数量面に効いてくるため、またとないビジネスチャンスだと考えています。
②今後どれくらいの成長が期待出来る事業領域なのか?
リサーチ会社の調査においても、光トランシーバー市場の今後の展望は非常に明るいとされています。例えば、株式会社グローバルインフォメーションによると、世界の光トランシーバー市場規模は、2024年に136億ドル、2029年までに250億ドルに達すると予想され、2024年から2029年で年間平均して13.0%の成長が見込まれています。
また、同社のAIサーバーに関する調査を見てみても2030年までにCAGR約18.7%という非常に高い成長率が予想されています。
この背景には、AIが計算に使用する計算資源¹の確保合戦があります。AI利用の需要に対して供給が追いついておらず、その点が現在のAI業界発展にあたってのボトルネックとなっています。その問題を解決すべく、Open AIのSam Altman氏は数兆ドル規模のデータセンターへの投資を見込んでいると発言(CNBC)していますし、マイクロソフトはデータセンター運営事業者のIRENと97億ドル規模の契約を締結しました(ロイター)。また、直近のBloomberg報道によると、Googleはテキサス州のデータセンターに400億ドルを投資するとのことです。日本においても、Microsoft、AWS、Googleがそれぞれ4,400億円、2.2兆円、1,000億円をデータセンターへ投資するとされています(経済産業省)。このように、計算資源確保を巡った要人発言や大きな動きが相次いでいます。
先述の経産省資料にははっきりと”生成AIの競争力は、「AIの機能」に加え、計算需要とともに増大する電力需要の抑制に不可欠な「消費電力の低さ」”と記載されています。その実現に不可欠な光トランシーバーの市場は相当の伸長を期待でき、ひいてはトランシーバーに使用されるめっき薬品を納品するJPCの業績にも良い影響となると考えています。
③何故金めっきが重要な役割を担うのか?
まず、金めっきが光トランシーバーのどのような部分に使用されているのかについて確認します。様々な部分に使われているようですが、その中でもプリント基板(PCB)という、緑色の板のように見える電子回路部分がコア部分です。PCBは現代の電子機器製造に必須のアイテムとして知られており、光トランシーバーにも例に漏れず使用されています(参考)。実際、JPCが光トランシーバー関連でめっき薬品を納入する先は、PCBメーカーが主であるとのことでした。
JPCが得意とする金めっき用の薬品は、省電力化や計算効率向上等の光トランシーバーに最も求められる品質を確保するために必須となる接続部のめっき工程で利用され、㋐電気導電性の高さと㋑耐食性の高さという、金(Gold)特有の性質に起因して、他薬品では代替は難しいと考えられます。
まず、㋐についてです。電気導電性とは、その名の通り電気の通しやすさを指します。節電性能がAIデータセンターには求められると書きましたが、光トランシーバーも例外ではなく、効率的に電気を通し、ロスを少なくできる方が望ましいと言えます。
また、光トランシーバーの部品であるレーザーダイオードは非常に熱に弱く、もし温度が10℃上昇すると、寿命が半減するとも言われています(参考)。電気導電性が低い(=抵抗が大きい)ほど、信号のエネルギーが熱エネルギーに変わるため、伝送効率や消費電力の観点で望ましくない環境において、金の導電率は主要金属の中で銀、銅に次ぐ3番手クラスで非常に優れており、光トランシーバーの品質向上に寄与します(参考)。
電気導電性のみでは、銀や銅によるめっきの方が優れていることになりますが、㋑耐食性の高さが金の圧倒的な優位性を確かなものにしています。耐食性とは、金属の腐食のしづらさのことを指します。金属は経年により酸化が進むと酸化膜(錆もその一種)が形成される等の劣化が起き、電気導電性や製品寿命に悪影響を与えます。しかし、金は非常に安定した物質であるため腐食が生じづらく²、長期間安定して使用することが可能です。電気導電性と耐食性の両方を兼ね備えている点が、金めっきが他のめっき素材よりも圧倒的に選好される理由です。
データセンターは長期にわたる安定稼働が求められる性質を持ちます。NUTANIX記事によると、企業の収益化能力の最大37%がITのダウンタイムにより失われるとされているなど、現代の企業経営において決して欠けてはならないITインフラを支えるのがデータセンターです。データセンター事業者にとっても顧客から見た安定稼働の信頼性が無ければ事業機会を逸してしまいます。そのため、停止リスクを背負ってまで安価な代替めっきの製品を使用するインセンティブはありません。金価格は昨今上昇の一途をたどっていますが、トランシーバー全体の調達コストに占める金の割合は高くはないと想定されます。
上記を踏まえ、JPCが技術上の優位性を持つ金めっきの優位性は簡単に揺らぐものではなく、AIサーバーとそれに伴う光トランシーバーの数量増加とともに、今後大きく成長すると考えます。
以上、JPCが「隠れAI銘柄」と考える理由をご紹介しました。投資家目線での分かりやすさを重視した記述・出典に基づき、私どもの理解を記載しておりますが、ご自身でも調査いただけると、より面白い発見があるのではと思います。
出来る限り正確な情報の記載に努めていますが、内容を保証するものではない点は念のため申し添えさせていただきます。
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今この投稿を作成する際に市場や技術的な動向等の調査を行う中においても、生成AIを存分に活用しています。その他、幅広い分野で生成AIなしでは業務が効率的に運営出来ない状況が加速しており、その有用性を疑う人は少数だと思います。その一方で、フィジカルAIも含めて幅広い分野でのマスアダプションは緒に就いたばかりです。
今後この大きな産業構造の変化、引いては私たちの生活の変化を支えるAI革命とまでいっても過言ではない領域において、喫緊且つ最大の課題である高速大量通信や高伝導効率を実現する観点で、当社の培ってきた金めっき技術は欠かせない存在です。
前回の投稿の中では、過去のしがらみを断ち切り思い切った合従連衡を進めるべき、機会と危機が同時に半導体関連の機能性化学品分野にも訪れていることを申し上げました。生成AI関連での計算資源ニーズの拡大は、正にこの“機会”のど真ん中に該当する分野であり、当社がこの領域で地保を築かれることを期待するとともに、本事業が花を咲かせられるべく、企業価値の真の向上に資する経営オプションをお示しいただくことを願っております。
¹ データセンターも構成要素として含まれる、コンピューターの計算に必要な基盤全般のこと。厳密な定義はないが、経済産業省資料では「AI用データセンター+マネジメントシステム」との記載がある他、総務省資料では「データセンター等の計算資源」という書かれ方をしている。本論では実質的にデータセンターのみを指す。
² 例えば、標準電極電位という指標でその点確認可能
(過去のJPCへのエンゲージメントに係る投稿一覧)
投稿一覧
2025年10月27日 ー 日本高純度化学 決算発表コメント
2025年7月30日 ー 日本高純度化学の大量保有に関わる変更報告書の提出について
2025年7月7日 ー フジ・メディアHDのガバナンス問題の検証番組と日本高純度化学株式会社を絡めて
2025年6月27日 - 日本高純度化学株式会社の株主総会結果について(臨時報告書への見解)
2025年6月23日 ー 日本高純度化学株式会社第54回定時株主総会に参加しました
2025年6月16日 ー 日本高純度化学株式会社第54期定時株主総会における総会検査役の選任について
2025年6月11日 ー 日本高純度化学に対する公開キャンペーン内容の確定について
2025年6月7日 - ひびきの株主提案にISS推奨表明
2025年6月3日 ー 太陽ホールディングスを巡る動向と日本高純度化学に対する私どものキャンペーンを絡めて
2025年6月1日 ー 日本高純度化学に対する筆頭株主としての公開キャンペーンの実施について
2025年5月28日 ー 日本高純度化学株式会社に対するキャンペーンに関するダイヤモンド・オンライン記事掲載
2025年5月26日 ー 筆頭株主として日本高純度化学の社外取締役に対して意見要請を実施
2025年5月22日 ー 日本高純度化学に対する株主提案コメント
2025年5月21日 ー 日本高純度化学に対する筆頭株主としての株主提案の実施について
2024年10月2日 ー 日本高純度化学株式会社 取締役会への書簡送付について
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