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2024年4月14日 ー 同意なき買収の流れと日本株式

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約4分

ひびきの清水です。

最近、昨年来活況の日本株式相場の流れを受けて、海外の、しかも過去に全くコンタクトのなかった投資家より突然ご連絡をいただき、意見交換の機会を設けることが急増しています。特に、外国人投資家の間で(手前勝手ながら)私が昨年8月執筆した持ち合い構造に関する経営史学的考察と 6 つの提言(英語版:Six-Suggestions)が思わぬ広がりと反響をいただいております。相当なエネルギーを注ぎ込んだペーパーでしたので、多くの方々に読んでいただき、お問合せをいただけることを心より嬉しく思います。

ただ、そうした日本株式への新規投資もしくは投資枠の増額を検討している多くの投資家が依然として強いSkepticism(懐疑心、猜疑心)を持っていることも改めて実感します。過去、何度も「今回は違うかもしれない」という淡い期待をことごとく裏切られてきた経験からして、悲しいながら納得がいく部分もあります。ただ、最近のそういった数々の意見交換の中で、「今回は違うかもしれない」という意味で外国人の方々に最も説得力があると感じていただける部分が、2023年8月に経済産業省が、企業買収における行動指針 (2023)を発表し始まった「同意なき買収」の流れです。日本の企業社会は長らく昭和時代の古き良き慣習に浸ってきましたが、数十年振りのインフレ環境の到来と共に、遂にその風習を振り切り、今まさに新しい価値基準に向き合う時がやってきたと言えます。

同意なき買収は、企業の支配権という極めて重大な決断を経営陣や取締役会が精査する上で、最終的には「株主共同利益」を重視せよ、という指針が旗印になっています。そのガイドラインがあればこそ、一旦M&Aや買収の意向による水面下の交渉が断られ、打ち切られていたとしても、現在の株価より高い価格での買収の意思を公表し、現在の株主に提示することに一つの正当性が与えられるということであり、この流れを経済産業省が作ったということが、外国人に大きな反響と驚きを持って迎えられているのです。

経営戦略等が評価されて株価が高い(∴資本コストの低い)企業は、その高い株価を(株式交換の場合は)通貨として、または(通常のTOBの場合は)融資などを調達する上での信用力として活用し交渉を有利に進められることになりましょう。であるからこそ、成長戦略を実行していく上で、割安な企業を買収することの戦略的選択肢の行使の現実味も増してきます。そういった意味で、このガイドラインの発表とその後の同意なき買収の発表により、多くの企業が「仲良く」「ぬくぬくと」上場していた時代は終わり、多くの業界で、「資本市場を活用した事業戦略の有無」によりその勝敗が決まるという、厳しい道筋がはっきりと見えてきている状況です。株価を意識しない経営などもう経営ですらない、という程景色が変わった印象です。

ただ、勝敗の決定、と仰々しいことを言いましたが、それは経営権だけの問題です。良い経営者は、従業員を活性化させ、顧客に対しても自社の価値を浸透させ、無駄を排除し、売上と利益を増やし、給与やボーナスも増やすことに全力を尽くし、信賞必罰を徹底させ、有言実行を図ることでしょう。その覚悟がなければ「同意なき買収」といった大きな決断に踏み込むことはない、と容易に想像出来ます。例え最初に「同意がない」状態であったとしても、結果として、新しい経営者による買収が成立し、そういった覚悟のある経営が実現することで、本当にやる気のある従業員にとっての幸せ、そして多くの付加価値、企業価値、さらには国富が生み出されるようになることの可能性は決して低くはないと感じます。結果的に、買収をされた従業員や取引先にとってよくよく考えると「良い買収」であった、と言える可能性は十分にあるのです。そうです、これは、まさに新しい日本のための経済産業政策の一環でもあると言えるのです。

6つの提言内の第6章、で私が記載した、米国において1970年代~1990年代にかけて進行した資本市場の所有構造の変化とそれに伴う「経営者革命」からの「株主反革命」と「LBOブーム」の到来などにつき、おそらく欧米人の方がリアリティを持ってその資本市場の進化の道筋とその奥深さを理解していると考えられる中、今回の「同意なき買収」の流れを日本国内の投資家より海外の投資家の方がヴィヴィッドに感じていることが大変興味深いところです。

良い経営者の皆さん、攻め時ですよ。応援しております。


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