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2024年6月8日 ー 株式会社河合楽器製作所 ディスカッションについて

約7分

Hibiki Path Advisorsは、5月30日、主要投資先である河合楽器製作所(「河合楽器社」)の幹部の皆様とIR面談を行い、事業面、財務面など様々な意見交換を行いました。

私どもは、昨年5月に河合楽器社に対し、公開の提言書をお送りし、その後も、事業戦略、財務施策、IR開示など様々なことについて対話を続けて参りました。河合楽器社の真摯なご対応及び2024/3期決算説明会資料(「本決算説明会資料」)から、河合楽器社が企業価値向上に向けて大きく動き出していることが確認出来ます。

まず、以下の本決算説明会資料(p.44)は、「株主等との対話の状況」と題して、今までの株主等との対話において指摘された点等を包み隠さず表記し、継続的に検討していることを示しています。尚、私ども一株主としても、株主還元については、よりスピード感を持って拡充いただくことで、業績が良くない間でも河合楽器社を支えたいと思う株主を増やすことにつながると考えておりますし、買収防衛策も早晩廃止をしていただきたいと考えております。

(出所:河合楽器社 本決算説明会資料)

また、対話の成果として、以下の本決算説明会資料(p.45)のように、配当性向の拡大、IRサイトの充実、説明会資料の充実、オンライン説明会開催など様々な施策を実行されてきております。

(出所:河合楽器社 本決算説明会資料)

このような株主等との対話にオープンな姿勢については、過去と比較すると劇的に変化しており(これからさらに進化し続けていただきたい点も多々ありますが)、私どもを含めた投資家の声に真摯に耳を傾けて、企業価値向上施策に踏み出していることが確認出来、私どもとしても大変嬉しく感じていますし、高く評価できる変化であると感じております。

業績については、残念ながら2024/3期は、市場、特に中国市場の逆風により減益着地(営業利益は前年の50億円⇒32.6億円)となりました。さらに、今期(2025/3期)の業績予想は、端境期の市場の動向に加え①ブランド向上施策と②大きな在庫調整が加わり、営業利益の通期見通しは約10億円、前期比は約-69%という大幅減益予想の発表となりました。これは、一時は鍵盤売上の35%程度を占めるまでに急成長を遂げた中国市場の構造的な変調という致し方ない面もありますが、大幅な減益をいとわず一気に短期間で処理を図る点については、果断な判断であり、私どもは正しいアプローチであると理解しています。

なお、河合楽器社のブランドリーダーたるShigeru Kawaiを中心としたグランドピアノはこの逆風下でも販売好調で、フル生産に近い状態が続き、今後も価格アップを図っていくとのことであり、加えてOgilvyという著名なブランドコンサルタントとも契約し、世界的に一貫性のあるブランド向上施策を「攻めの姿勢で」紡ぎだしていく模様です。今年は、日本のピアノコンクールの中でも国際的に認知されており、3年ごとに開催される第12回浜松国際ピアノコンクールがあり、また、来年10月には、前回2021年開催時にShigeru Kawaiを選択した奏者が3名もファイナルに進出したことでも話題にもなったショパン国際ピアノコンクールもあります。これらは、さらに多くの聴衆に河合楽器社のピアノの音色をアピールできる機会であり、河合楽器社の今後のブランド認知にとっても勝負の数年といったところかと存じます。河合楽器社に投資する立場として大いに期待をしたいところです。

最後に、資本政策に係わる文脈で財務的な側面で私どもとしては一点とても気になっていることがあり、そのご指摘をして本投稿を締めたいと思います。

(出所:河合楽器社 本決算説明会資料)

上記の本決算説明会資料(p.39)のとおり、河合楽器社は、ネットキャッシュの水準について、2024/3期時点で100億円程度のネットキャッシュを保有している状況を「十分ではない」と評価しています。しかし、この水準は2015/3期~2021/3期と比較してかなり高い水準になります。私どもは、上記の評価は保守的過ぎるという印象を抱いているため、意見交換の際に、河合楽器社を含む楽器製造業を営む企業3社に関する財務分析を用いて、私どもの意見をお伝えしました。

上記財務分析の一例として、上記3社が月次の運転資本の何カ月分に当たるネットキャッシュを保有しているか、という比較を以下にお示し致します(弊社計算)。

(出所:各社決算資料、ブルームバーグ)

河合楽器社は、2024/3期は在庫の増加で水準が低下したものの、依然として運転資本の5.3か月分に当たるネットキャッシュを保有しています。業種によって違いはありますが、一般的には、目安として運転資本の3か月分に当たるネットキャッシュを保有する場合は十分に安全な財務状況にあると評されており、それ以上の現金及びネットキャッシュの確保は、バランスシート全体の収益性の悪化を招き、資本収益性、いわゆるROEの向上の足かせとなる潜在的問題を秘めています。同業他社のローランドは、2022年に大規模な戦略的M&Aをしたこともあり、現在はネットキャッシュ状態ではなくネットデット状態にありますが、それでいて金融機関からの借入金利は1%未満と低く、事業継続性の信用は全く揺らいでいません。その果敢な成長戦略の姿勢もあり、資本市場(株式市場)からはPBR約3倍という高い評価を得ています。

河合楽器社は、下記の本決算説明会資料(p.47)において、次期中計を「KAWAI 十年の計」と題して、果敢な利益成長と、12%のROEという目標を掲げています。今期については、業績改善の谷間となりますが、私どもとしては、この2桁のROEは、10年と言わず今後数年以内での実現を目指すべきであると考えます。収益性の改善は勿論ですが、ネットキャッシュ及び株主資本の水準を(ROEの計算の分子だけでなく分母も)コントロールして持続的な高ROE体質を獲得し、市場から高い評価を得ていくことは、全ての上場企業に投げかけられている重要な課題であり、河合楽器社にも、改めて「守りに入りすぎず」に安定性と市場評価のバランスを充分に吟味しつつ、次期中計の中身の具体化をご検討いただきたく思います。

(出所:河合楽器社 本決算説明会資料)

河合楽器社の株価は、今年1月の最も高い終値が3,770円でしたが、減益発表以降下落し、5月31日時点の終値は3,140円、PBRは0.6倍となっております。市場では、今期の配当金額予想を保留していることも嫌気されていると考えられます。DOEの導入も含め、配当に関しても新しい指針などご検討をいただきたいと考えております。

私どもとしては、外部環境が厳しいことは十分に理解しつつ、河合楽器社の中で発現しつつある発想及び戦略の転換、そして変化、さらには進化の姿勢に注目しており、河合楽器社が既に有しているブランド力及び将来的なその認知度のさらなる拡大の可能性を鑑みると、上記株価水準は極めて魅力的と考え、引き続き叱咤激励のエンゲージを継続していく所存です。

尚、以下のサイトから河合楽器社の2024/3期の説明会の動画も御覧いただけます!
Bridge Salon:(7952) 河合楽器製作所 2024年3月期 決算説明会

過去の当社へのエンゲージメントは、下記リンク先資料及び動画をご覧ください。
2023年9月4日 ー 株式会社河合楽器製作所 エンゲージメント アップデート動画について
2023年8月23日 ー 株式会社河合楽器製作所 ディスカッションについて
2023年6月11日 ー 株式会社河合楽器製作所 フォローアップ エンゲージメントのご紹介動画について

【関連投稿】
松井証券マネーサテライト: 話題のアクティビストに聞く!個別銘柄編:河合楽器製作所


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