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良い会社

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良い会社

 長年様々な企業とその経営者、幹部の皆さまとお会いし、フォローさせていただき、そして投資などをさせていただきながら、いつも「良い会社とは何か」と考えて来ました。

 難しいテーマであり、一つの正答などない、興味の尽きない問いです。投資先はもちろん、お客様の「会社」、業務上お付き合いさせていただく様々な「会社」、そして自分の「会社」もあり。

 今回は、先日お会いした会社で、久々に心の底から素晴らしいと感じることが出来た会社の例をご紹介したいと思います(実名は伏せさせていただきます)。社長にお会いしてお話ししたのは一時間ほどの時間だったのですが、私自身心に響くものがあり、その考え方や発想に、より多くの方々に触れていただき何かの参考にしていただければと思いました。極めて理想論的な内容で恐縮ですが実際にこのようにひたむきで青臭い会社が上場企業に存在していることに新鮮な感慨を覚えました。

 その前に、「会社とは何か」ということについて、もう一度少しだけ考えてみたいと思います。形から入りますと、事業の形態やリスクを軽減する形態という意味でのハコである株式会社の起源として「東インド会社」が有名です。当時極めてリスクの高かった海上航海と新興国との貿易を行う上で、有限責任や多くの出資者を募る分散の考え方は必要に迫られた上での知恵だとは言え、画期的でありました。資本主義の発展の一つの突起点がここにあるのは間違いないのでしょう。

 しかしながら、これは事業家の立場から見た視点の会社であり、その先には、まさに法によって人格を認められたいわゆる「法人」は何かという哲学的な議論に突入していく訳ですが、今回は会社の内部、もしくは会社の組織を形成するモノに光を当てるべく違う視点での「会社とは何か」についてアプローチしてみたいと思います。研究分野としてはやはり比較的新しい「経営学」に当たり、その発展に関してはP.ドラッカー先生が特に有名ですが、組織としての機能分化を最初に明白に語ったのは、アダム・スミスであり、国富論で述べた「分業」が基点になっています。

 一つの製品を作る、という作業をいくつかの工程に分けて、それを専門に行う人を配置し、それを流れ作業にする、という流れにより専門技能の蓄積により生産性を飛躍的に高め、イギリスで産業革命が広がったことは史実ですが、アダム・スミスはそのような集合的な生産と労働形態を、人間の本性から生じる必然的な帰結と言っています。その本性は「利己心」「自己愛」と表現されています。

 アダム・スミスは作業の分化と職業の分化を区別せずに同じ土俵で語っていますが、当然ながら職業の分化は、「お互い協力して分業した方が総合的に(双方に)メリットあるよね」という自己愛からの発展形だと考えても問題ないですが、「(同一組織内での)作業の分化」についていえば、やはり会社というものが高度に発展した現在への道筋を語る上ではそれだけでは言葉足らずで、そこを埋める形で実益に適う学問として発展してきた分野が経営学ということになります。
さらには、大人数の組織を動かすということは、当然学問という範疇で片付けられない、人の心をどう動かすかという部分にもかかわってくることで企業文化や経営者、会社としての個性などの定性的要素の比重が大きくなり、「会社」というものの未来の姿が混とんとする中、過去から受け継がれてきた会社組織の在り方に疑問を投げかける岩井克人先生のような論客も注目されるようになっています。

 頭でっかちな説明はそろそろこの辺に致しまして、実例に移りましょう。私の考える良い会社の定義は(上記の前置きが多少説明してますが)、以下のようになります。

① 経営陣の頭の中に「利益を得る」ことに対して、「正当な対価はお支払いいただく」という健全な意欲がある。

② 経営者や経営陣の中に、社会の中で自社が何をなすべきか、に関しての想いがあり、それを継続的に発信し、共感を募る努力をしている。共感を募る相手は、顧客であり、従業員とその家族であり、取引先であり、銀行であり、株主。

③ 従業員の自己実現のベクトルと会社の成長ベクトルが共鳴している。「共鳴」というのは、「合っている」という強い意味の集約ではなく、双方の方向性が相互に排他的ではなく、様々な組み合わせが、意図的か、非意図的かを問わず可能性として用意されているという意味。

④ オーナーシップマインドが従業員の末端にまで浸透している。さて、今回の「良い会社」は自身の会社に関して、以下の定義づけが非常にはっきりしています。

(a) 自身の事業ドメインの定義
(b) 顧客との関係性の定義
(c) 会社にとって「大事なもの」の定義

当社は、産業用の配管に係る継手を製造している会社で、顧客は機械メーカー、発電所から半導体/液晶製造装置に至る、所謂、製造業の縁の下の力持ちです。

 この会社が生まれ変わるきっかけは、現会長が、創業から二代続いたオーナーファミリーから三代目社長として 1999 年に経営を引き継いだところから始まります。実際引き継いだ際は会社の業容は悪化しており、現会長が業績回復の立役者であることは間違いないようです。

あまり外部に語りたがらない人柄故、外部から掌握できる子細な記録がないのですが、業績の推移をみると一目でわかります。

 現会長が社長になる前は営業利益率がマイナス~5%程度で、特に1998年度は EBITDA までマイナスとなり企業の存続さえ問われかねない状況でしたが、彼の就任以降売上も回復しただけでなく、利益率が各段に向上しました。彼が行った様々な施策が奏功したのですが、その根本には徹底的な理念の追求がありました。

 スタートは「徹底して配管屋、継手屋としてのベストを尽くす」ということでした。顧客は装置メーカーとして、製造コストの大部分を占めるキーコンポーネントデバイスの性能や配置などには過度にまで神経をとがらせますが、それをつなげる配管や継手に関しては、全体のコストからしたら些末な部分なのであまり考えを巡らせずに、安いところに出す、というスタンスが過去は通例だったようです。全体設計において配管の効率性はほぼ無視されていた状態でした。

 そこで、現会長が当時始めた当社のモットー「今までの常識はすべて破壊する」という姿勢で、頭の凝り固まった業界に殴り込みをかけたのです。先ず、常識の破壊の例の一つ目が、「敢えて継手を減らす」ということです。継手メーカーからしたら売上減につながり、命取りともとられかねないですが、複数個継手が必要と思われる部分に、敢えて1個のモジュール化されたカスタム品を作ることによって、①顧客にとっての工数を減らし、②流体抵抗を減らし、③接続漏れといった組み立て時のリスクを減らし、④圧力損失などのリスクを減らす、という様々なメリットがあり、トラブルの発生確率も大幅に引き下げ、よってトータルコストが減ることにより顧客に評価される(=以前の複数コンポーネントのときより結果的にはるかに高く売れる)ということです。

 次の常識の破壊の例が、配管設計から部材調達から加工組立検査までを一括で行い納品する、という姿勢です。顧客は IN と OUT の両端をつなぐだけで完成となり、顧客の工数を大幅に削減し、生産性の向上に役立つということです。

 勿論ここまで顧客との信頼関係が醸成されるとなかなか取引関係を変更することが難しくなり、ある種囲い込みとなります。

上記2つの例は「世界一すごい配管屋になる」という会長の経営理念が実際のビジネスの現場に強く表現された事例です。

 配管と継手の付加価値の本質を見直し、突き詰めることによって他にはない発想を生み、極めて高収益であっても顧客から(単価を下げろなどと)なじられない、本当に喜ばれる製品とサービスを生み出したといっても過言ではないでしょう。

 顧客との関係性の定義に関しても極めて非常識な事例を2つ挙げさせていただきます。先ずは、顧客からの依頼は継手一個からでも対応するということです。製造業はどうしても固定費がかかるのと、組み換えなどの際に発生する製造ダウンタイムなどのムダがあるのである程度のロット数でないと受注に応じないのが常ですが、どうしたら顧客の悩みに対応可能か、という逆転の発想で、敢えて一個からの受注を受けて差別化していきました。

 しかし単に御用聞きの形で赤字受注をしていては、会社はつぶれます。そこで生産方式も通常の常識を覆しました。通常継手は精密機械であり、その製造機械は専用機で、概ね数億円することがざらです。
しかし、そのような機械を使って 1 個の製品を制作していては大赤字ですので、当社が行ったのは、汎用機を工数分だけくっつけてラインにし、仕事をこなすということです。効率が悪いようにも見えますが、実は、最終製品用に組み換える部分の機会費用が低減されるというメリットがあります(10 台つなげると、組み換えで止めるのはその一部で済み、残りの装置は他の製品の工程を作り続けられます)。そのような細かい改善と工程管理を行うことで一個でも受注を受けられる機動性を身に着けたのです。

 もう一つ顧客との関係性に大きい影響を与えている挑戦が、「品質管理部がない」ということです。製造業であればどこでも、そういった部署が全体の流れや工程、最終製品の歩留まりなどを見ながら網羅的に改善案をまとめるだけでなく、不良品やトラブルの際の顧客クレームの窓口とも連携して問題解決にあたる部署になります。それを敢えてなくしているのです。

 その発想は「各々が責任を尽くして工程の連携の中で相互チェックができていれば不良品は発生しない」という理想を追い求めて「品質管理部」という甘えを排除した、ということになります。当然不良品やクレームがなければ業務が極めて効率化され、利益率も各段に改善するのです。そのようなクオリティコントロールを取り仕切る部署がなく、一人ひとりの従業員に委ねられているという仕組みは、顧客によっては取引を問題視する先もあったことと推察しますが、それでも負けずに押し通し、「結果」で勝負してきたところにこの会社の芯の強さがあります。

 多くの、常識とかけはなれた挑戦を続けてきた会社ですが、それを支えているのが実は経営陣と従業員一人ひとりとの親密な信頼関係です。当社はストックオプションなどまだ発行しておらず、そういう意味では金融表面的な「オーナーシップ」を従業員と共有している訳ではないのですが、反対に驚くべき実態は「定年がない」ということです。意欲をもって会社に貢献して自己実現を続ける人は何歳でもウェルカム、しかし自分の気持ちに区切りがついて引退したい場合も感謝しながら送り出すということです。そこに至るまで従業員の「自主性」を求めているのです。現在当社で働く 60 歳以上の従業員は全体のおよそ20%超を占め、技能や就業哲学の伝承という意味でも多大な役割を果たしています。

 日本の旧来の給与システムは、若年時には給与水準を付加価値より低めに抑えることと(実質的に会社が従業員からその差分を借りている)、その見返りを後年そういった従業員の位が上がったときに、その付加価値以上の給与で「返済する」という考え方で終身雇用を維持してきました。しかしそれにしても定年があるのですが、当社はそれを敢えて撤廃することでこのシステムを極みまで昇華させています。

 会社からの「借りは必ず返すよ」というコミットメントを、従業員は意気に感じ、長期にわたって会社を良くしていくことにエネルギーを注ぐのです。これにより、オプションや持株会といったものに頼らずに、本質的なオーナーシップ意識を形成することに当社は成功しています。

 当社は、顧客を大事にするということと、従業員を大切にすることを一体としてとらえています。つまり「顧客のために必死に考える従業員が大事」という姿勢を、経営理念、社内の組織運営、従業員の雇用管理まで含め徹底しているのです。

 当然、そのような姿勢ですので、売上規模はまだ200億円にも満たず、社員も連結ベースで500人に満たない規模です。だからこそ、このようなきめ細かい経営スタイルを踏襲出来るのかもしれません。当社の良さを維持しながら、①規模を拡大しつつ、②いよいよ海外にも展開する局面に今はあり、また新たな挑戦ではありますが、楽しみです。

 現社長は日本有数の大企業から強い誘いで当社に 2011 年に移ってこられ、2 年前に社長に就任されました。強烈なリーダーシップの会長とタッグを組み、包容力あふれる姿勢で今までに培った当社の強みをさらに伸ばすことに尽力されていると同時に、前職での長い海外経験を活かし、海外の大手の顧客との関係構築、事業展開にも力を尽くされています。「私はつなぎ役」と謙虚な姿勢を貫かれていますが、実際には 2012 年以降海外展開の種まきを進め、台湾、中国、韓国、米国と拠点を設立し、当社の次のステージへの挑戦の準備を着々と進めてきました。当社の古くから目指してきた「世界一すごい会社」というのがウソ偽りではないことが確認できます。

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 「良い会社」には様々なスタイルとその物語があり、一つの「枠」にはめられないという点で深遠で興味の尽きないテーマです。人間と同様、良い会社といえども苦労している点や弱みなど様々な問題と日々向き合いつつ前進している訳でして、経営者や環境の変化によって良い会社でなくなってしまうということも多々あります。

 今回の例も様々なケースの中の一つのスタイルを持っている会社ということで、それ以上でも以下でもありません。

 ただ、良い会社に唯一ある共通点としてはダーウィンの進化論にある通り「常に進化しようと」努力し続けられる会社だと感じます。最初に述べさせていただいた通り、全ては「分業」から始まり、それが壮大なシステムとなった暁に今日の企業体が主体となる資本主義があります。

 経営者も分業者の一人であり、製造ラインに張り付いている従業員もそうです。それらの人々が自身の分業分野だけのことを考えていてはおそらく会社は早晩衰退するでしょう。
自分の前後の人、さらには顧客の顔まで思い浮かべながら仕事し、何かさらに付加価値が加えられないか思案する姿勢が従業員の心に浸透している会社は、業績がその時点で良いか悪いかは別として、本質的に「良い会社」であり、結果的に株主も大きな価値を共有させていただけるのです。

 日本人の美徳の一つとされる「滅私奉公」は、美徳である側面と害悪である側面両方を併せ持っています。最近、某最大手運送会社が、従業員の業務負担が上がりすぎ、27 年ぶりの値上げと報道されています。当然のことと考えます。毛細血管のように社会の隅々まで付加価値を浸透させた素晴らしい企業ですが、「タダで吸える空気」になってはいけないのです。そういった従業員と一つになり企業体としての付加価値を正当に主張する「勇気」、これはまさに経営者に期待されている分業なのではないでしょうか。普段であれば、「値上げ」というと世論で叩かれる懸念もあったのですが、今回は国全体の雰囲気からしても好意的な反応である模様です。社会が少し前向きな方向に前進しているのかもしれません。

 
 簡単ではないことですが「良い会社」を目指しお互いに進化を続けていきたいものです。

ひびき・パース・アドバイザーズ
代表取締役
清水雄也