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Brexitに際して思うこと

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Brexitに際して思うこと

 2016年6月23日英国の国民投票により、Brexit(EU 離脱)が決定しました。歴史的に極めて大きいインパクトがある決断です。24日のアジア金融市場は、投票直前の調査でEU 残留派の方が多いとの内容だったことが覆され、大混乱に陥り、円ドルも一時100円を突破する状況でした。日経平均株価は1286.33円、7.92%の大幅下落となりました。まさに株主総会シーズンで忙しい日本企業は虚を突かれたような状況でしょう。将来予測可能性はここまで低下したのか、と衝撃を受けます。

 この結果に際して思うことを自身が将来見返すためにも書き記しておきたいと思います。

 先ずは、先進国において、人口が増えて成長していくことが暗黙の前提で動いている民主主義が、成長が低下して高齢化社会に突入した際に、機能不全に陥るリスクがまさに顕在化してしまったことに強い危惧を覚えます。残留派は経済の混乱と成長の低下の可能性をその主張の根幹としてきたのですが、離脱派はそのことも意に介さず、尊厳のある国家の姿を取り戻す、という極めて理想論(そして経済のことは別に悪くなっても構わない)をぶって勝利してしまったのです。

 民主主義と資本主義は、個人の人権の尊重と、個人や企業の将来の成功に対する欲求とその努力とが、ある一定レベルの競争ルールと、セーフティネットのバランスにより管理され、絶妙な相性で人間社会を進化させてきました。

 ポスト産業資本主義は、技術革新によって限界的に低下する通信コストを背景に情報化が進み、貧富の格差を極大化しながら、一方向に加速してきました。成長や富、情報化に対する反作用がここまで強くなったことは、資本主義の成長と因果関係があるのでしょう。今回の英国の事例は民主主義がその反作用として顕在化しうることを証明してしまっているという印象です。これはまだ始まったばかりなのかもしれません。そこで、企業、そして資本市場参加者はどうすればよいか、という点にも触れたいと思います。あくまで私見です。

 先ず、やはり想定されるのは、各国やリージョンが人やモノの移動スピードを落とす方向に走る可能性が増しています。アジア太平洋では TPP も進んでいますが、このままでは米国の新大統領が待ったをかける可能性もあります。経済用語でいうパレート最適を敢えて選ばない方向をよしとすることになります。企業はやはり「守り」を意識する局面に移行したと理解すべきだと思います。

 しかしそういった守りの時期に攻められるのが M&A であることは間違いありません。世界的に株価は下落し、企業は信用の収縮でファイナンスに苦労します。実はそこは中長期で見て、数段跳びの企業発展を遂げる大チャンスであります。元々キャッシュリッチな企業が多い日本企業にとっては渡りに船であります。

 グリーンスパン元 FRB 議長が先ほど、CNBC テレビの緊急インタビューに登場しました。各国協調して世界の成長率を管理(低下)させないと世界は大変なことになる、と警告していました。勿論彼もそれが可能とは思っていないでしょう。なぜならそれが可能な社会とはある意味で、「資本主義社会」ではなくなるからです。しかし、今回の事象が、資本主義の根本的な矛盾を感じさせる事象であることは間違いないです。その狭間の中で我々は今後数十年この社会の中で必死に生き残るべく努力するのです。

 しかし、会社としては、そういう外部環境を併せ持って自社の成長と成功に集中することは、基本的には善であり、経営者の皆さんがそれに集中することは資本主義の社会にとっては、しごく当然であり、まさに資本主義の理念であります。社会の大義を優先して自社がつぶれては、それこそ社会的責務を果たしていることになりません。企業にとっての大義とは社会の中で付加価値を発揮し続けることだと私は考えています。ということで、色々鑑みても、この混乱と資本主義に対する懸念の広がる局面は、企業にとって正直大チャンスであります。他社を割安で買収出来るチャンスであり、自社株買いや配当増など、巷で言われている当たり前の施策を施す最高の機会として利用すべきです。それに対する投資家の反応も間違いないと思います。株主としては、ぜひそういう発想で経営をしっかりしていただける会社に投資し、長期で応援したいと考えます。

 まだまだ本当の混乱はこれからだと思いますが、今回のショックは世の中の予見性が極めて低下していると実感させるという意味では、大変良いきっかけだと思います。

ひびき・パース・アドバイザーズ
代表取締役
清水雄也