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買収防衛策と企業経営

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買収防衛策と企業経営

 今年も3月末決算企業の株主総会の日程が近づいてきました。事業会社の法務、総務、株式部の方々にとっては今が一年の中で最もめまぐるしい日々であると存じます。

 今年の総会の議案に色々目をやっていて気が付いたことですが、今年は数多くの買収防衛策を導入されていた会社のうち、30社近くがその廃止を決めた、もしくは廃止の方向という、株主や投資家側としたら好意的に受け止められる時代の流れがある反面、依然として買収防衛策を新規に導入されようとする企業が5社以上ある模様です。個別の事情は外部から推察しかねますし、おそらく経営側からすると強い理由と背景があることと思いますが、さすがに時代錯誤的な印象を受けます。

 買収防衛策は、企業の今後の事業の方向性の予見性を高める(つまり現経営陣が現状の延長線上で今後も経営を行っていく連続性を高める)という意味で株主からみてリスクが低下するという好意的な見方もあろうかと思います。しかし、それにより公開企業特有の売買の自由からくる牽制効果が減失し、経営者が保身に走ってしまう別のリスクを増加させ、総合的には株主価値に対してはマイナスであるというコンセンサスは、多くの年金基金や運用会社の公表する議決権行使基準の内容を見るに、日本市場においても既に醸成されているのではないでしょうか。

 株主価値が長期的に最大化されているか、というのは言わずと知れた難しい議論で、決して現在の定量的な経営指標でのみ判断してしまってはいけないものです。しかしその判断の難しいことに対してこそ、経営者は信念をもって株主に説明し、株主はその内容に真摯に耳を傾け、投資の是非を判断せねばならないのでしょう。買収防衛策の導入によって、そういった機会が多少なりとも制限されてしまうのであれば、株主の判断材料が減少し、不安要素が増加することによってリスク回避型の投資家が売却し、株価が低迷するという連鎖に陥るリスクが高まります。

 あくまで私見で、極論かもしれませんが、もし経営者が自社の買収防衛策の導入を検討するのであれば、さらに抜本的な解決策として、マネジメント・バイアウトを含む株式非公開化を検討すべきだと感じます。株式を非公開化し、親会社の完全子会社になる、特定の企業や個人の傘下に入る、もしくは自分の会社にする、などして、より特定の株主に密に説明責任を果たす関係性の中で経営をする方が株主にとっても、経営陣にとっても従業員にとっても雑音なく本来求められる職務や立場に集中でき、企業価値にもプラス効果があるものと考えられます。

 いずれにせよ、時代の総体的な流れとしては、買収防衛策の廃止と並び、任意の委員会を設置する会社も急増、独立取締役の指名も進み、公開企業であることの意味と正面から向き合い、事業経営のみならず、企業価値の向上に邁進される経営者の皆さまが急増していることは喜ばしいことです。株式報酬の導入も同時に進み、責任だけでなく、その努力の成果を取締役の皆さまが享受されるのは当たり前のことであり、素晴らしいことと思います。この流れがさらに太く強くなることを切に願い、私自身もその流れを推進する一人として今後も尽力していきたいと思います。

ひびき・パース・アドバイザーズ
代表取締役
清水雄也